ブレイキンのバトル会場に鳴り響く、ブレイクビーツ。大会やイベントではDJが選んだ音楽に合わせて、ダンサーがパフォーマンスをします。ところでブレイクビーツは、曲中のブレイク(BREAK)=歌のない部分をつないで作られたものだと知っていましたか? 今回はブレイキンDJ歴20年超のDJ TOGACEEさんにお話を伺い、ブレイキンの音楽知識からおすすめプレイリストまで、「音楽」という切り口からブレイキンを深掘りします。

  • 01
    ブレイキンと音楽の関係はまるで“親子”?
  • 02
    まずはここから! DJ TOGACEEが選ぶブレイキンの新定番5曲
  • 03
    音楽に注目してブレイキンをもっと楽しもう!

1970年代、ニューヨークで行われていたブロックパーティー(野外での音楽パーティー)から生まれたブレイキン。その発祥は音楽と深く結びついていました。ブレイキンと音楽の関係とは?

ブレイキンの始まりは、パーティーにおいてDJが流す曲の中で、歌が入っていないパート=ブレイク(BREAK)に、アクロバティックなダンスで盛り上がる人が出現したこと。やがてDJたちはドラムや楽器のビートだけが流れるパートを、2台のターンテーブルでつないで長めにプレイするようになり、それを「ブレイクビーツ」と呼ぶようになりました。ブレイクビーツで踊るのでBREAK BOY/BREAK GIRLで、それらの略称がB-BOY/B-GIRL(ビーボーイ/ビーガール)とも言われています。音楽を楽しみ、ダンスで表現することがブレイキンの本来の目的なので、音楽が「親」なら、ブレイキンはその「子ども」とも言えるような、切っても切り離せない関係です。

ファンクやソウル、ラテン、ロックをはじめ、世界中のさまざまなジャンルの音楽にブレイクビーツは存在します。意外な曲から良いブレイクビーツを見つけ出すこと(=ディグ)はDJの腕の見せどころ。レコードしかなかった時代は“秘伝”のブレイクビーツを守るべく、レコードジャケットにテープを貼ったり、全く別のカバーを付けたりして曲名を隠す文化もあったとか。TOGACEEさんも常にアンテナを張っていて、街中で何気なくかかっているBGMを聞きながら、「良いブレイクが入っているな」と思うこともあるそうです。

即興のパフォーマンスを競う大会では、どの楽曲がかかるのか、ダンサーはDJがプレイする瞬間まで知りません。トップレベルのB-BOY/B-GIRLは、どんなジャンルの音楽がかかっても、たちまちに見事に踊りこなします。一方DJは完全に即興で曲を選んでいるかというとそうではなく、TOGACEEさんの場合は、まず大会ごとに70〜100曲くらいのプレイリストを作成。1人で回す時は大会全体の流れや盛り上がりを考えながら、ラウンドごとに選択肢をある程度絞り込み、あとは現場の流れに応じて選曲するそう。曲をプレイするときは、コンマ何秒の「間」がイベントのテンションを左右することもあるため、神経を尖らせます。会場を熱く盛り上げるプレイを意識しつつ、バトルではフェアな姿勢も大切。決してどちらかに肩入れすることはなく、クールにプレイを続けます。

ブレイキン音楽の入門編プレイリストとして、幅広い年代から珠玉の5曲をセレクト。王道クラシックだけでなく、現代のファンクバンドの楽曲も!

1983年の映画『フラッシュダンス』で使用された楽曲。たった数分のストリートダンスシーンで流れた曲が、世界中でアンセムに。イントロから本編、後半のブレイクビーツに至るまで、ブレイキン音楽の要素が凝縮されたファンク。洋邦問わず、さまざまな曲でサンプリングされているので、耳にしたことがある人も多いのでは。ドラムのリズムがアップロック(ブレイキンの代表的なムーブ)にピッタリ。

こちらも説明不要のクラシック。 言わずと知れたファンク界のレジェンド、ジェームス・ブラウン(JB)が、オリジナルバージョンを1969年にリリースしましたが、ダンスの現場でよく聴くのは、1986年にセルフリミックスされたバージョンです。この曲が収録されている『In the Jungle Groove』は、JBのベスト盤的なアルバム。TOGACEEさんにとっても、ダンスを始めたてで右も左も分からない頃、「どうやらJBがいいらしい」と手探り状態で初めて買った思い出の1枚だそう。

『Queen Of The Nile 』(Young-Holt Unlimited)『Give It Up』(Kool & The Gang)といったジャジーでファンキーなナンバーなど、多彩なサンプリングソースが詰め込まれている90年代ヒップホップの代表曲。このようにさまざまなジャンルの音源を再構築し、ラップミュージックを進化させた90年代のヒップホップは、全ての音楽の橋渡しとなるGOLDEN ERA(黄金期)とも呼ばれています。

③で挙げた1990年代のUSAヒップホップとはまた別の進化をしていた、UKミュージックシーンで生まれた超絶的なメガミックス※。あらゆるジャンルの音楽をミキシングし、目まぐるしくビートが変わる一方、渾然一体としたトータルバランスがお見事。他ジャンルのダンスミュージックで耳にすることはほとんどないものの、ブレイキン界隈では絶対的に不可欠な1曲。

  • 既成の楽曲をサンプリングしてメドレーにする手法

2022年にリリースされたロシアのファンクバンドによるサイケでドープ※な1曲。ブレイキンの現場では70年代・80年代のアンセムが中心となるので、「最近の曲はかからないの?」と思う人もいるかもしれませんが、もちろん新しい曲もあります。TOGACEEさんも、こういった世界各地や日本国内のバンドの楽曲をチェックし、現場で数多くプレイしているそう。

  • ヒップホップ界隈で使われるスラング。「最高」「かっこいい」という意味

世界中の音楽からDJが選りすぐったブレイクビーツを楽しめるブレイキン。ダンスパフォーマンスはもちろん、これからはぜひ音楽にも注目してみてください!

プロフィール

ディージェー トガシー

DJ TOGACEE

1978年滋賀県生まれ。18歳からブレイキンを始め、ダンスの音源制作のためにターンテーブルを入手したことからDJとなり、約1年後にはフロアデビュー。以後20年以上、世界大会の国内予選からローカルなイベントまで幅広く活躍。近年はLOCKIN'(ロックダンス)の現場でも精力的に活動している。