ファッションはB-BOY/B-GIRLにとって、自分のスタイルや精神を表現するための重要ツール。ブレイキン黎明期70-80年代におけるニューヨークで、ブレイキンを踊っていたダンサーたちの着こなしは、ダンスと共に世界中に広まり、今でもリスペクトされています。今回はDJであり、アパレルショップのオーナーも務めるDJ MAR SKIさんにお話を伺い、ブレイキンの王道ファッションから取り入れたい定番アイテムまで、「ファッション」という切り口でブレイキンを深掘りします。
70-80年代、ニューヨークのB-BOY/B-GIRLたちのファッションは、当時の彼らの置かれていた状況と深く関連しています。ブレイキンとファッションはどのように結びついているのでしょうか?
「ファッションは我慢」と言われることもありますが、B-BOY/B-GIRLにとってもそれは同じで、踊りやすさより見た目が重視されていました。ヒップホップの世界で最上級の褒め言葉の“FRESH(フレッシュ)”※なファッションは、カッコよく踊るために必要不可欠なもの。ブレイキンが生まれたのはニューヨークの貧しい地域だったため、安価なアイテムでも自分を表現し、フレッシュに見せることがセンスの見せ所でした。褒められるものではないですが、当時は盗みを働いてまで欲しいアイテムを入手したり、ストリートでの追い剥ぎをしたりすることもあったそうです。彼らのファッションはダンスと共に海を超え、世界中のダンサーたちに本物のブレイキンファッションとして伝わっていきます。
- 翻訳すると「新鮮」となるが、ヒップホップの世界では「カッコいい!最高」という意味を示す
ブレイキン黎明期に確立されたスタイルの中でも外せないアイテムがあります。ボトムスは、アメリカのカンザス州発祥ブランドのジーンズ。比較的安価だったこともあり、当時の写真ではこのブランドのジーンズを履いているダンサーが多く見られます。ニューヨークの伝説的なクルーや有名なB-BOY/B-GIRLは一歩抜け出して、さらに高級なジーンズを履くのがステイタスだったそうです。キックス(スニーカー)はローテクのキャンパス地のスニーカーや、スエードスニーカーなどのバスケットシューズ的なものがB-BOY/B-GIRLにとってのシンボル。高価格帯のスニーカーに憧れつつも金銭的に手が届かない人にとっては欠かせないものでした。トップスは無地のTシャツに自分やクルーの名前をセルフプリントしたオリジナルが定番。さらに頭に丸みを帯びたパイル地のハットやハンチング、メッシュキャップを、被るというより乗せるようなイメージで身に付け、重厚なスクエア型のデザインのサングラスをかければ、360度どこから見ても完璧なブレイキンスタイルが完成します。今ではこういったファッションをするダンサーは少なくなりましたが、歴史や背景を学んで知っておくのは大切なこと。ダンスだけでなく、ファッション、音楽、精神もリスペクトした上で受け継いでいきたいもの。
ブレイキンのバトルでは服装を見ているジャッジもいます。特にアメリカ人のジャッジはその傾向が強く、裸足でバトルに出ようものなら「スニーカーを履いてない時点でB-BOY/B-GIRLじゃない!」と即予選敗退となることもあるとか。B-BOY/B-GIRLとしてなぜその服装なのか?という表現ができていることは、バトルにおいても重要なポイントです。またパンツのポケットをすべて裏返す、利き手側のパンツの裾を上げるといった着こなしは「武器を持たずに丸腰で戦っているぞ」という無言のメッセージ。ファッションに込められた意図を知り、自分なりの表現ができれば、最高にクールですよね。
ブレイカーファッションの入門として、誰でもすぐに取り入れられる要素や、定番アイテム5選を紹介。これを読んで、あなたも挑戦してみよう!
誰でもすぐにできるファッションとしてDJ MAR SKIさんが教えてくれたのが、極太の靴紐“ファットレース”。靴紐にアイロンをかけ、プレスされて幅が太くなった靴紐のことを言います。元々スニーカーをとても大切にしていたダンサーが作り出したものですが、彼らが通常の靴紐からリボンやゴムに付け替えるなどアレンジを加え始め、より見た目や機能性を重視したアイテムを着用するようになりました。やがて、メディアでもブレイキンが取り上げられるようになると、ダンサーたちのそうしたファッションを目にしたアメリカの企業がファットレースを商品化して売り出したことで、ブレイキンの定番スタイルになりました。もちろんスニーカーもB-BOY/B-GIRL仕様だとさらにフレッシュに。王道のキックスにファットレースを通してストリートへ出れば「君はB-BOY/B-GIRLか?」と聞かれること間違いなし。
ブレイカーファッションに挑戦する時に、押さえておきたい5つの定番アイテムをDJ MAR SKIさんが解説。アイテムごとの歴史や背景も学びながら取り入れてみましょう。
ストレッチの効いたジャージはブレイキンにはマストアイテム。通称シャカパンと呼ばれるナイロンパンツも人気です。スキルが上がってジーンズで踊れたらもっとフレッシュ!
ヒップホップ、ブレイキンで自分を表現するために、無地のTシャツに自分達の所属するクルーや自分の名前をプリントしてアピールしていた先人たち。オリジナルウェアーは唯一無二のアイテムになるので、それぞれのアイデアで作ってみましょう。
頭を使って回るヘッドスピンはブレイキン定番の動き。いまは専用のスピンニットやスピンキャップもあるのでチェックしてみましょう。ファッションとしても重要なアイテムの1つなので、好きなスポーツチームのキャップを被ったり、ボトムスやTシャツと色を合わせたりするのもおすすめ!
ブレイキンやダンスを踊るには欠かせない1番のマストアイテムと言っても過言ではありません。動きやすさや軽さは重要。価格帯にかかわらず、機能性を重視しないローテクのスニーカーでも、ステップが格好よく見えるものもたくさんあります。
洋服以外にも個性を引き立てる、重厚感のあるゴールドのロープチェーンのネックレスや、大きめのスクエアシェイプのメガネやサングラス、フェイスがフラットタイプのリング(2連や3連タイプ)などの小物を身につけるのもグッド。とはいえブレイキンの邪魔になって技を失敗すると本末転倒。しっかりとスキルアップして自身のキャラクターを考えながら付けるのが良いでしょう。
先人たちの創意工夫の末にできあがったB-BOY/B-GIRLのファッションスタイル。見た目のカッコよさはもちろんですが、その裏側にある考え方も大事だと分かります。ブレイキンをもっと楽しむために、歴史的なルーツと現代の価値観を織り交ぜながら発展してきたファッションにも注目してみてください!
プロフィール
ディージェー マースキー
DJ MAR SKI
ダンスバトルイベントのDJとして国内外で活躍。ブレイキンイベントでも数々の世界大会に招待されサウンドコントロールのDJを務める。ヒップホップカルチャーにも造詣が深く、ヒップホップを創出した世界最大の組織「UNIVERSAL ZULU NATION」のオフィシャルメンバーの1人。現在は東京バンタンデザイン研究所高等部ブレイキン課の非常勤講師であり、ダンサーから絶大な支持を得るアパレルショップのオーナー。