ブレイキンの魅力の一つは、美しい技。B-BOY/B-GIRLはパフォーマンスの中でそれぞれの「美」を追求しています。今回は、KOSÉ 8ROCKSディレクターのSHUVAN(シューバン)さんが登場。彼独自のトリック・ムーブへのこだわりや「美」について語ってもらいました。
- どの瞬間を切り取っても美しく。ブレイキンはシルエットが命
- クライマックスを盛り上げる一撃必殺「胸バク」
- 地道な練習を積み重ねたからこそできる危険な大技。ポイントは「着地」にあり
- 世界が震えた。初めて「胸バク」を披露した世界大会
プロフィール
シューバン
SHUVAN
1986年、福岡県生まれ。2000年にブレイキンを始め19歳で上京し、日本屈指のブレイキンチーム「FOUND NATION」へ加入。福岡出身の若手メンバーを中心に構成される「九州男児新鮮組」の指導者として次世代の育成に力を入れ、世界大会でチームを優勝に導く。2024年8月からD.LEAGUE唯一のブレイキンチーム「KOSÉ 8ROCKS」のディレクターに就任。
14歳の時、当時大人気だった大阪のブレイクダンスチーム「BRONX」のパフォーマンスを見て、衝撃を受けたことからブレイキンを始めたSHUVANさん。"クレイジースタイル"と呼ばれる大胆なアクロバットなどで、人とは違った動きを得意とする彼ですが、根底には確固たる美しさへのこだわりがあると話します。
「福岡にいる僕の師匠いわく『B-BOYのBは美学のB』。トップロックでもアクロバットでも指先まで神経を尖らせて、どの瞬間を写真に撮っても美しいシルエットになるように意識しています。特に日本人のB-BOY/B-GIRLは細かな動きに磨きをかける人が多く、動き自体が他の選手にはないオリジナルになっている。たとえ体格やパワーで海外の選手に敵わなくても、美しいシルエットと繊細な表現力は日本人選手の強みだし、一つの動きにどれだけこだわって練習したかというのは必ずパフォーマンスに現れます」
SHUVANさんがブレイキンならではの美しさを感じるのは、ダイナミックに旋回するパワームーブやフリーズの音ハメ※が決まった瞬間。また、パフォーマンス以外のところでも、大切にしている「美学」があると言います。
「個人的には、バトル中どんなに熱くなっても挑発されても、相手の失敗を過剰にアピールするとか、相手を蔑む動きはしないようにしています。やっぱり見てて印象が悪いし、かっこよくないですから。無駄なアピールをしなくてもジャッジはちゃんと判断してくれますし、堂々としている方が勝てると思います」
- 曲の音に合わせて体の動きをはめ込むこと
SHUVANさんが夢中になったのが、ブレイキン発祥の地であるアメリカのB-BOYたち。なかでも1990年代に異彩を放ったレジェンドダンサーB-BOY IVANは最も影響を受けた憧れの人物であり、SHUVANという名前の由来でもあります。
「アメリカのシーンでは『スーサイドムーブ』と呼ばれるチャレンジングなアクロバットが流行していて、僕もその影響をバンバン受けました。B-BOY IVANは唯一無二の存在で、現在の僕の武器である王道のトップロックからのたまに見せるコミカルな動き、大胆なアクロバットは、彼の動きが原型になっています」
オリジナリティ豊かなアクロバットの中でも、SHUVANさんが一番自信を持つのが「胸バク」。バク転と胸をスライドさせるムーブを融合させたトリックで、ふわりと宙に舞って身体を反らせ、胸から足へとなめらかに着地します。聞くと、失敗から生まれた技だというから驚きです。
「もともと肩でバク転をするB-BOYがいて、それを練習していたらビビって胸に入ってしまって。でも『そっちのほうがすごい!』ってなったので、技として仕上げていきました」
バトルやショーケースでも「胸バク」はクライマックスを盛り上げるアクロバットとして投入。観客もジャッジも心動かされる一撃必殺技です。
「ソロバトルならムーブの最後あたり、クルーバトルだと最後の1分間くらいに入れるのが構成としては多いです。対戦相手の反応は面白くて、クラッシュ(ミスったな)とか『痛い痛い』というジェスチャーをしてきたり。ただ、『本物が見れた!』って喜んでくれるB-BOYもいます(笑)」
胸から足まで流れるように着地していく一連のムーブはまさに美しいの一言。ただ、他のトリックにはない動きだからこそのリスクもあります。
「胸バクは下手をすると、ジャッジや観客に失敗だとみなされる技。あえて胸で着地をする、こだわったアクロバットなんだと理解してもらうために、かなり意識して動きの完成度を上げていきましたね」
また、「胸バク」は怪我の危険を伴う大技。習得にはしっかりとしたアクロバットの基礎と地道な反復練習が必要になります。
「ポイントはなんといっても着地。形が崩れると顎や膝を打ってしまうので、必ず胸、お腹、下半身という流れで身体を動かす練習をします。まずマカコ※から胸を逃がす動きを繰り返して、手をつかずに着地する感覚を身体に覚え込ませる。アクロバットをやる時はかなり集中しているので怪我をしたことはあまりないですが、もちろん負担はかかります。一番のコツは『我慢』ですね(笑)」
プレイヤーとしてだけでなく、指導者として多くのB-BOY/B-GIRLたちを育ててきたSHUVANさん。圧倒的なパフォーマンスを完成させるため、時に危険が伴うチャレンジも必要となるブレイキンの世界では、ダンスに向かうそもそもの心構えが重要だと話します。
「パワームーブと言われる技は少し体調を崩すだけでも怪我をする恐れがあるし、筋肉量を適度に保たないと回転できなくなったりする。もしブレイキンが上手くなりたいなら、心身のコンディションをしっかり整えることが第一歩だと思います」
- しゃがんだ状態から後方に回転する動き
2007年、ドイツで開催された世界大会で初めて「胸バク」を披露したSHUVANさん。世界がどよめいた瞬間を今でも鮮明に思い出せると言います。
「あの時が間違いなくターニングポイント。ショーケースで初めて披露した時、地響きのような歓声とプラス悲鳴も聞こえてきて、僕もアドレナリン全開でした。業界にとってはかなりの衝撃だったようで、ジャッジをはじめいろんな方々に声をかけてもらいました。いろんなものを捨ててダンスをやってきたけれど、やってて良かったなと思えた瞬間です」
世界大会やD.LEAGUE での優勝、アメリカでのテレビ出演など、自身の夢はほとんど達成できたというSHUVANさん。これからは次世代の育成に力を入れたいと話します。
「教え子たちに自分の見てきた景色を見せてあげたいし、彼らがどこまでいけるかを見てみたい。日本のブレイキン業界がもっと盛り上がり、選手として生活ができる人を増やしていきたいです」
超絶技巧なアクロバットは、並々ならぬチャレンジ精神と練習量、美しい動きへのこだわりから生まれると教えてくれたSHUVANさん。時間をかけて細部まで研ぎ澄まされた美しさに注目してみれば、ブレイキンの魅力をより一層深く味わえること間違いありません。