ブレイキンの魅力の1つは、美しい技。B-BOY/B-GIRLはパフォーマンスの中でそれぞれの「美」を追求しています。今回は、世界中から数千人規模のダンサーが参加する「Red Bull BC One 2024」にて、見事日本予選を勝ち抜き、上位16名のファイナリストとしてブラジルでのワールドファイナルに出場を果たしたMiMzさんが登場。自身が細部にまでこだわりを持つというトリック・ムーブの美しさについて語ってもらいました。
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ダンスに言葉はいらない。一人一人の魂と熱量が表れる瞬間
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「ブリッジ」と「スレッドスタイル 」で自分なりの女性らしさをレペゼンしたい
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美は細部に宿る。誰にも真似できない、ニッチでコアな表現を磨き上げてきた
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美しいムーブを繰り出すために、フィジカルとメンタルを整える
プロフィール
ミームス
MiMz
1994年、石川県生まれ。4歳でヒップホップを始め、9歳からブレイキンの世界へ。2017年にジャパンファイナル、2019年「Red Bull BC One World Final」で準決勝に進出し、活動を休止。2022年に第一子を出産し、2023年6月に4年ぶりにダンサーとして復帰。2024年ブラジルで開催された「Red Bull BC One World Final」に出場。
4歳の頃から地元の石川県金沢市でヒップホップを始め、9歳でブレイキンの世界に足を踏み入れたMiMzさん。ブレイキンの美しさは一人一人の世界観を表現できる点にあると言います。
「ブレイキンは、個々のスタイルや世界観を表現できるものだと思います。ダンスを見ただけでその人のバックグラウンドや人間性、性格が手に取るようにわかるんですよね。B-BOY/B-GIRL一人一人の魂や熱量が動きに表れる瞬間がすごく美しいと思います」
MiMzさん自身は、かつて自分や周りに対するヘイトや、ネガティブな感情がダンスにも表れていたそう。しかし、妊娠・出産を機にマインドが大きく変化して、ダンスも私生活もポジティブでハッピーなものになっていったと言います。そんなMiMzさんは、ブレイキンならではの魅力をこう話します。
「そもそもダンスって言葉がいらないコミュニケーションツールで、そこが大きな魅力なんです。世界中どこに行っても、ダンスをやっていればすぐに友達になれちゃうほど。特にブレイキンは、DJ、MC、ブレイクダンス、グラフィティという、ヒップホップの4大要素の1つ。そのルーツを世界中のB-BOY/B-GIRLたちはすごく大切にしていて、ブレイキンを通じた世界共通のつながりがあります。言語を越えて脈々と紡がれてきた歴史があり、それを尊重しているところもブレイキンの素晴らしさだと感じています」

出産で変化した体と向き合いながら、MiMzさんは以前から大切にしている「女性らしさ」を表現することを突き詰めています。
「今も昔も、女性らしさをレペゼンしたいっていう気持ちは変わっていないです。私の内面やダンスを言葉で表現するなら、繊細なスタイル。そこで要になるのが“柔らかさ”と“硬さ”のバランスです。柔らかいだけじゃ締まらないので、大事な所を決め切る硬さも大事にしています」
自身のスタイルである女性らしさを表現する上で、MiMzさんが自信を持つムーブが、「ブリッジ」と「スレッドスタイル」。いずれも高い柔軟性が鍵になる技です。


「腰や背中の柔らかさを生かして反るブリッジは、私の強みでありシグネチャー※です。また、スレッドは“糸を通す・通過させる”という意味で、主に手足を使って輪を作り、そこに手足を通したり抜いたりするレッグワークの1つ。女性の体って男性に比べてお尻が大きいし、骨盤まわりも柔らかいので、ブリッジもスレッドもしなやかで美しい、女性ならではの繊細さを表現できます。
- その選手を象徴する技、得意とする技
実は私、高校生の時までは派手なパワームーブしかしていなくて、何かが足りないと感じていたんです。そんな時、地元でお世話になっていたダンスチームの先輩が、ブリッジやスレッドスタイルを教えてくれて。もともと周りと違うことをしたい性格なので、すぐに挑戦しました。それ以来、この2つの動きは自分のベースになっています」
MiMzさんいわく、スレッドスタイルの時に特に注目してほしいのは「過程」。
踊る中で、上中下の高さで遊ぶことも意識していて、特にスレッドスタイルはどの高さレベルでも決められる技だと言います。
「どこで輪を作り、どこから入れるか・抜くか、そしてどう次につなげるか、という過程が重要で。想像した流れを形にできた時は本当に気持ち良いですが、意外と練習中に何も考えないで動く中でナチュラルに出ると、よりアガります。最近は息子とダンスで遊んでいる時にインスピレーションをもらって、実際に形にすることもあります」
また、自身のシグネチャーであるブリッジにおいて、特に周りと差がつくポイントは「腰の高さ」。
「柔軟性を生かした腰の高さに特に注目してほしいです。しなやかに踊っていて、そこからの決め技として繰り出す動きなので、ブリッジに至るまでの動きのプロセスも見てほしいですね」



2つの得意技を最適なタイミングで繰り出すために、バトル前はイメージトレーニングを欠かさないと言います。
「ネタをパズルのように組み合わせてイメージトレーニングしています。スレッドスタイルはわかりやすいネタでなければトゥワイス※してもそこまで影響がないと思うので、強みとしてあえて繰り返し使うことも。逆にブリッジは似たような技をすることが多いので、どのラウンドで使うか大会全体での構成も考えます。いずれにしても、ここぞというポイントや、動きを目立たせたい時に使いますね」
- 同じ技を2回繰り返すこと
かつてはパワームーブだけで勝負していたMiMzさんですが、今は派手な技よりも、ニッチな部分にこだわりを持って動きを磨き上げていくスタイルがフィットしていると感じるそうです。
「今はパワームーブなどのリスクが高い技はあまり持っていないのですが、その分オリジナルのスタイルを1ラウンドにどれだけ詰め込めるかを追求して、自分と戦っています。とはいえ、私がこだわっていることってわかりやすいムーブではなくて、めちゃくちゃニッチで細かい部分。『わかる人にはわかる』というコアな技の積み重ねなので、万人受けはしないかもしれません。でも、そこをとことん磨き上げて誰にも真似できないような表現を繰り出していきたいと思っています」
剛柔の繊細なバランス感覚としなやかな美しさで、場の空気ごと動かしていくようなMiMzさんのムーブ。子どもの存在をきっかけに食生活や体づくりも見直すようになり、「体の動きがよりしなやかになったように感じます」と話します。
「体がよりしなやかになった一方、筋肉がないと決めたいところで決め切れないので、練習前には軍式の腹筋と背筋トレーニングをしています。あと、産後落ちてしまった下腹の筋肉を鍛えるためにもいろんな種類の腹筋をしていて。こうしたトレーニングによって動きがより引き締まります」

美しいパフォーマンスを見せるための体づくりはもちろん、片手は使わないなど意識的に動きに制限をかけてみてコンセプトのアイデアを一ひねり変えてみたり、多様なジャンルの音楽に合わせてフリースタイルで踊ったり、表現の幅を広げるために工夫をしているMiMzさん。「たまにクラブで良い音楽を聴いて身体を揺らすこともインスピレーションとして大事にしています。音楽があるからこそダンスがあるので」と話します。また、一度は離れていたブレイキンですが、今は新たな目標も生まれてきました。
「最近は瞑想を始めたのですが、“深呼吸”と“円”を意識してヘルシーなマインドでいることが、自分のエネルギーを100%出すための糧になっています。トリックやムーブなどの外面的な美しさだけでなく、内面的な美しさを磨くこともブレイキンでは重要なことだと思います。このマインドを持ちつつ、先日ブラジルで開催された『Red Bull BC One World Final』を終えて、改めて自分の持っているものを再構築したいと感じました。国内だけでなく、海外でのバトルにももっと挑戦していきたいですね」

並々ならぬこだわりと探究心によって表現されるMiMzさんのスタイル。彼女が美しさを込めるポイントに注目しながら、自分なりの「美」を探してみることで、より一層ブレイキンの奥深さに触れることができるはずです。